ページの先頭へ

                                            トップページに戻る
少年リスト  映画(邦題)リスト  国別(原題)リスト  年代順リスト

Mumu ミュミュ先生

フランス映画 (2010)

この映画は、監督ジョエル・セリア(Joël Séria)の自伝的な内容だと、どこかに書いてあった。そこで、徹底的に調べてみたら、一番詳しく書かれていたのが、フランスを代表する映画専門サイトALLOCINÉの中の記事だった( https://www. allocine.fr/film/fichefilm-146736/secrets-tournage/ )。その中に書かれていたことを紹介すると…
 監督ジョエル・セリアにより1993年に脚本が書かれてから、ミュミュが日の目を見るまでに17年かかった。 この間、監督は 4 回書き直したが映画化にまで漕ぎつけなかった。「私はそれを脇に置き、プロデューサーから、撮影に着手できる脚本があるか尋ねられた時、この脚本を、他の2本と合わせて提示した。プロデューサーは3つのうち1つを選択し、それがミュミュだった」。
 「この学校では、すべてがコミカルだった。ミュミュの周りで働く人々、彼女の尋常でない教え方、戦後 2 年目の 1947 年における学校の雰囲気、占領の影響の残る物資の欠乏、そして、私がよく知っていたこの地方の生活。こうした状況下で、子供と “彼を好きになる先生” の愛と慈しみの物語を、ドキュメンタリーと民族誌学の側面を忘れずに描くことに、私は非常に興味を持った。それと同時に、愛を取り上げられた子供時代の寂しさを、大人の側の寂しさと結び付けて表現してみたかった」。
 監督のジョエル・セリアがしぶしぶ認めたように、この物語は多分に自伝的であり、彼にとってラヴ・ストーリーであり続けた。「困難な時代の子供たちが、この小さな村の学校で過ごした日々は、子供たちから “県内で最も厳しい” と考えられていた途方もない教師と結びついた鮮やかな思い出を、私に残した。多くのコレージュ〔中学校〕に通い、多くの教師と出会った私にとって、記憶に残っているのは、ミュミュという綽名を付けたこの女性だ。だからこそ、私は、彼女のユニークさ、彼女の教え方、そして私と彼女との特別な関係についての映画を作りたかった」。
 この記事を読む限り、映画の中のミュミュは、監督の記憶に残っている強烈なイメージをそのまま描いたであろうことが分かる。ただ、主人公のロジェを異常なまでに嫌う父と、それに無関心な母という悲惨な家庭まで「自伝」であったかについては、触れられていない。ただ、映画の中で、ロジェは5回退学になり、コレージュを転々とさせられる。上記の監督の言葉の中に、「多くのコレージュに通い」とあることから、ひょっとしたら、あらすじでは、つい “キチガイ親父” と書いてしまったロジェの最低の父親は、本当にいたのかもしれない。私が観た数多くの映画の中で、ミュミュほど恐ろしく、かつ、優しいところもある教師は見たことがないし、キチガイ親父ほど、実の息子を嫌悪する父親も見たことがない。そういう意味では、変わった登場人物と出会えるユニークな映画と言えるかもしれない。ただ、こうした状況は事実かもしれないが、必ずしも自国フランスの観客や批評家に心地良いものではなかったようで、この映画を最後に、ジョエル・セリアは監督・脚本家の両方を辞めている 。なお、訳にあたっては、DVD付属のフランス語字幕を使用した。

ランティエ家には、刑務所歴7年でセールスマンの父と、パッとしない母、近くのコレージュ(中学)に通う兄、そして、父からは自分の子供だと思われず、常に罵倒と虐待を受け、全寮制のコレージュにしか入れてもらえない11歳のロジェの4人がいる。そのロジェは、今度で、4回目の退学をくらい、父が車で迎えに来る。ロジェは退学の理由を弁解するが、どのくらい本当かは分からない。ただ、父は全く信用せず、家に帰ると殴る蹴るの暴行。そして、2年前まで在学していたサン・トゥジェーヌという田舎にある、ミュミュという怖い女性教師が一人で切り回している小さな学校に行かされる〔この辺りが、よく分からない。2年前といえば、父が出所した年なので、母が入学させたと推定される。映画を観ていると、そこでの評価は悪くなかったようなので、ここは退学ではなく転校だったのかもしれない。その場合、なぜ転校したのだろう?〕。監督が語っているように、第二次世界大戦後間もなくの学校の様子は、かなり特異であり、その中でも、ミュミュという綽名が付いた教師の突飛とも言える過激な言動は、現代なら即座に免職になるような凄まじいものだった。しかし、その厳しさは、不真面目な生徒と、「のろまで、トンチキ」な雑用係のリベロールに向けられ、真面目で勉強の良くできる子に向けられることはなかった。ロジェは、ペルシャールという気のいい生徒と大親友になり、それまでボスとして威張っていたランドローを負かして下級生からも慕われる。何の問題もないように思えたが、第1の問題は、週末もしくは特別な休暇の際に、父が嘘を付いてロジェの帰宅を拒否したこと。これは、ロジェの心を傷付けた。第2の問題は、学校の大切な行事の際、一緒に参加した女子校の女の子とこっそりデートしたこと。これは、それまで培ってきた “ロジェに対するミュミュの評価” を瓦解させた。そして、復活祭の休暇にも帰宅を拒否されたことに端を発した争いから起きた、“ロジェがミュミュの顔にブラシを投げ付けてケガをさせる” という、許されない行為。ロジェは、逃げ出し、自殺も図るが失敗し、憲兵に保護されて連れ戻され、「わざとやったんじゃありません」と謝り、ミュミュも許す。しかし、“自分は暴力的なくせに、無慈悲で狭量” な司祭により退学させられ、両親に引き取られる。ロジェは、何を言っても許されず、即刻、市内のコレージュに送り込まれるが、真夜中に逃げ出し、激しい雨の中を4時間走ってミュミュの家に辿り着き、救いを求める。

ロジェ役は、バルタザール・ドゥジャン・ドゥ・ラ・バティ(Balthazar Dejean de la Bâtie)。生年月日不詳。この映画が映画初出演。のち2本の映画(2014、2021)に出演しているが、映画界で働いているとは思えない。泣くシーンがすごく多いが、あまりに多いので、本当に泣いている可哀想な子なのか、嘘泣きも交えて世の中を逞しく生き抜いている子なのか、判断が難しい。ペルシャール役は、ヴァランタン・フェレ(Valentin Ferey)。生年月日不詳。この映画が映画初出演で、かつ、最後の出演。ロジェの友達になるだけの役なので、個性はないに等しい。

あらすじ

早朝、雨の中、雨合羽を着たロジェが、教会が運営するコレージュ(中学)を出て来る(1枚目の写真)。ここで、本人の声で解説が入る。「僕は11歳。名前はブラス・クレ。平泳ぎが上手いことから付いたニックネームだ。今は1947年。コレージュから退校になったところだ。父さんは、1939年に刑務所に入り、45年に釈放された。僕を車で迎えにきている」(2枚目の写真)「両親にとって、僕はどうしようもないクソガキだ。でも、今回だけはムカついた。退校処分は絶対間違ってる。ボーディエの奴が生徒指導員に、あることないと言いつけたんだ〔父の車はシムカ8。1938-51年にかけてフィアットのフランスの子会社シムカが販売した中級車〕。父は、運転しながら、「さぞや、鼻が高いだろうな?」と皮肉を言う。「誓うよ、間違いなんだ! あんなこと絶対言ってない! 全部ボーディエがでっち上げたんだ。いとこ とはバカなことやったけど、他には何もしてない」(3枚目の写真)。「ムショにいた時 来てくれた神父さんが、信じ難いほどひどいと言ってたぞ」。
  
  
  

家の前に着いたロジェは、窓越しに手を振ってくれる母に向かって手を振る(1枚目の写真、矢印)。部屋に入ったロジェの上半身を脱がした母が、「なんでそんなに汚いの?」と驚く。「残りは自分で脱いで、洗い始めなさい」。ロジェは、水の入ったタライを前に、靴下、ズボン、パンツの順に脱いで、横に捨てる。そして、タライに入って足から洗い始める(2枚目の写真)〔この家には、風呂もシャワーもない〕。そこに、湯の入ったポットを持った母はやって来て。「頭を洗うから、石鹸を貸して」と言い、頭から湯を掛ける。「だけど、なんてべたべたした髪なの? これ、エンドウ豆?」(3枚目の写真)。「友だちが、頭にスープを掛けたんだ」。
  
  
  

朝食の時間。母は、夫に、「刑務所で知り合った神父さん、何もできなかったの?」と訊く。「ダメだとさ。俺のガキは、口が悪くて、他の生徒に非常に悪い影響を与えるそうだ」。ロジェは、「違うよ、全部ボーディエのでっち上げだ。僕は何も言ってない」と、泣きながら言う。母:「何を言ったの?」。父:「ガキらしい話さ。自慰とか」。「この子、どうするの?」。「さあな。教護院には、もう部屋がないかも」。ロジェ:「少年院なんかに行かない」。「黙っとれ! 口をきくんじゃない」。母:「サン・トゥジェーヌ(St Eugène)の教区司祭に、もう一度頼んでみたら?」(1枚目の写真)。これを聞いたロジェは、「僕、家から通いたい。寮生にはなりたくない」と泣いて頼むが、父は、「黙らんか!」と言い、立ち上がると、ロジェの頬を引っ叩く。そして、立ち上がらせると、襟をつかみ、「口をきくな。このクソ坊主!」と大声で怒鳴りつける(2枚目の写真)。「いやだ」。「黙れ!!」。右の頬と左の頬を引っ叩き、ロジェが床に倒れると何度も腹を足で蹴る(3枚目の写真、矢印)。ここまでくると、虐待以外の何物でもない。母は、「止めなさいよ。この子を殺す気?」と、キチガイ親父を止める。そこに、平然と入ってきたのが、3歳年上の兄。「どうしたの?」。「また、お前の弟だ。サン・シャルルから追い出された」と言い、急に優しい声になり、「行こう」と兄を連れて行く〔なぜ、兄は、地元の学校に家から通えて、ロジェは寄宿制の学校にしか入れてもらえないのか、理由は分からない。年齢は、ロジェの方が下なので、母の連れ子ではなく、両方とも自分の息子。そもそも刑務所に6年も入っていたような人間なので、異常人格の “クソ親父” としか言いようがない(決して、刑務所に入ったことのある人全般を指して 言っている訳ではない)〕〔父が父なら、母も母だ。なぜ、自分の子なのに、もっと守ってやらないのだろう? 変なのは、母が言ったサン・トゥジェーヌは、ロジェが2年前にいた寄宿制の学校。2年前といえば1945年で、夫が出所した年だ。ということは、母が寄宿制の学校に入れたことになる。これも不可解だ〕
  
  
  

夫がいなくなった後、ある意味、“見て見ぬ振り” しかできない愚かな母は、ロジェを助け起こす。そして、ロジェを抱きしめる(1枚目の写真)〔しかし、この行為の中に称賛すべき点は何もない。母は、ずっと前からロジェを見捨てて、何も行動を起こさなかったのだから〕。翌日、サン・トゥジェーヌの教区司祭から許可が下りたので、キチガイ親父は夜道を運転して司祭のいる学校に向かう。「おとなしくしてろ。今度バカやらかしたら、少年院だぞ」(2枚目の写真)。「他に行く所がなかったので、僕はサン・トゥジェーヌにある、県内で最もきらわれ者〔vache〕の教師ミュミュが教える村の学校に行かされることになった」。着いた頃は外は真っ暗。しかし、ミュミュの授業は続いている。科目は国語。「背の高い緑の茂みの中で、無数のさえずる鳥が…」という文を、一語一語呼んで、聞き書きをさせている。ドアがノックされ、ミュミュは、お気に入りの生徒に開けに行かせる。入って来たのは、キチガイ親父とロジェ。ミュミュは、「ああ、ランティエさん」と言い、ロジェには、「今晩はロジェ、2年分大きくなったわね」と声をかける(3枚目の写真)。しかし、ロジェが 「今日は、先生〔マドモアゼルと言うので、未婚〕」と言うと、「夜だから、今晩はと言わないと」と注意し、ドアの横に荷物を置かせ、座る場所を指差す〔空席も目立つ〕。キチガイ親父は 司祭に会いに行く。
  
  
  

ミュミュはすぐに聞き書きを始め、ロジェのために初めから読み始める。それを書き始めたロジェは、書いた文字の上に涙が落ち(1枚目の写真、矢印)、それから後は、涙を拭うのに忙しくて字を書くどころではなくなる。司祭に会いに行ったキチガイ親父は、自分の狂った視点からロジェの欠点をあげるが、司祭は、前回、預かった時、ミュラール先生〔ミュミュは生徒達が使う蔑称〕は、好印象を持っており、私もそうだったと反論する。司祭が、刑務所を訪れた時に、キチガイ親父と友達だった男について尋ねる場面もあり、キチガイ親父の暗い過去が再び明らかになる。一方、教室では、就眠の前に全員を集めて『Avant d'aller dormir(眠る前に)』というキリスト教の歌(第一節のみ)を合唱させている(2枚目の写真)。横に立っているのは、雑用係のリベロール。ミュミュは、歌が終わると、ペルシャールという生徒に、「ロジェの世話を。バッグを運ぶのを手伝って」と頼む。ロジェが2年前にいた時にリベロールはいなかったので、さっそくペルシャールに、「彼、誰?」と訊く(3枚目の写真)。「のろまで、トンチキな監視役」。教室から出た2/3の生徒は、リベロールが止めるのを無視して真っ暗な内庭に飛び出て行く。ペルシャールは、「彼には、何の権威もないんだ。時々、ミュミュに叩かれるし。ミュミュは、食べるだけで太っちょの司祭も叩くんだ」と教え、「司祭、知ってる?」と訊く。「うん、前、ここにいたから」。「時々、すごく怒り出す。ミュミュと一緒だと楽しいよ。狂ってるから。どこから来たの?」。「サン・シャルル(St. Charles)を退学になったんだ」〔場所不明〕。「どうして?」。「僕が卑猥なことを言ったと 告げ口した奴がいたんだ」。「ひどいな。殴ってやった?」。「そんな時間なかった」。騒がしい声に、ドアを開けてミュミュが顔を出すと あっという間に静かになる。
  
  
  

おとなしくなった生徒達は、リベロールの後に付いて寝室に向かう(1枚目の写真)。寝室は、1部屋4人ずつに分かれていて、2階に行く生徒達もいる。リベロールが、枕で殴り合っている手前の生徒の髪をつかむと、生徒はリベロールの顔に唾を吐きかける。怒ったリベロールが生徒の顔を張り飛ばすと、生徒は、「明日の朝、ミュラール先生と司祭様に言いつけてやる。父さんがお前を叩きのめしてくれる」と、脅迫まがいの言葉を並べ、リベロールは生徒をベッドに叩きつける。リベロールは、ペルシャールとロジェの部屋に行くと、ベッドメイキングを手伝ってやるようペルシャールに言って(2枚目の写真)、2階を見に行く。ロジェは、ペルシャールに 「ここは長いの?」と訊く。「去年から」。「どこから?」。「サン・ジュレ(St. Gelais)から。君は?」。「ニオール(Niort)から」〔サン・ジュレとニオールは9キロしか離れていない。ニオールはビスケー湾に面したラ・ロシェルの東北東約60キロ。以前紹介したコルドゥアン灯台は、ラ・ロシェルの南約60キロにある〕。「父さんは何してるの?」。「訪問販売員。君の方は?」。「戦死。ドイツ兵に殺された。母さんは再婚。相手は石工業者。姉妹はいる?」。「ううん、兄が1人」。「年は?」。「3つ年上」。「どこの寄宿学校?」。「どこも。通学してる」。「むかつくな」。「うん」。そこに、リベロールが戻って来て、話ばかりしていて作業が進んでいないが、電気を消す。次のシーンは、ニオールの家。帰宅した夫に、妻が、「で?」と訊く。「終わった」。「あの子、泣かなかった?」。「いいや」。「次は、少年院だ」。「昨日は、ヒヤッとしたわ。あの子を傷付けないで」。「奴にはもう我慢できん。忍耐の限界だ。長期間収監されたから、神経がもたん」(3枚目の写真)「それに、あのガキは、俺の子じゃないといつも思ってる」。「あんたってバカね。いつも、その話ばっかり」と言いながら、夫の首に甘えるようにキスするので、ひょっとしたら、ロジェは浮気の結果かもしれない。
  
  
  

ミュミュの学校は、この村に1つしかないので、1つのクラスにいろいろな学年の生徒が混じっている。そこで、幼いカミーユには、「4×8は?」と訊き、「32」。「9×6は?」。「54」で、本人も、ミュミュも満足する(1枚目の写真)。次に当たったのはロジェで、「アンシャン・レジーム〔フランス革命以前の政治・社会状態〕の、階級数は?」と質問される。「3です、先生」。「それは何?」。「聖職者、貴族、第三身分です」。「聖職者と貴族は税金を払わなかった。第三身分の構成は?」。「交易で豊かになったブルジョワ。労働者や農民は、時に貧しく、悲惨でした」。ミュミュは その答えに100%満足する。ペルシャールは 「すごいな」と感心し、ロジェは 「暗記してるから」と答える(2枚目の写真)。次に当てたのが、こっそり遊んでいたゲノー。「ジャンヌ・ダルクは誰?」。この不出来な生徒は、「ジャンヌ・ダルク… ええと…」。隣の生徒が、意地悪く、「シャルルマーニュ」〔シャルルマーニュは、ジャンヌより600年ほど前の初代神聖ローマ皇帝〕と、小声で教える(3枚目の写真)。そこで、ゲノーは、「シャルルマーニュの娘です、先生」と言い、生徒達から笑い声が起きる。ミュミュは、不気味に、「彼女は、何をしたの?」と言う。「オルレアンで、クローヴィス王を戴冠させました」〔クローヴィス一世は、ジャンヌより900年ほど前の初代フランク国王/ジャンヌはシャルル七世の戴冠式に列席したが戴冠させたわけはない/オルレアンはジャンヌがイギリス軍を撤退させた場所→これが重要〕「イギリス人によってランスで火刑にされました」〔ジャンヌが火刑にされたのはルーアン→これが重要/イギリス人だけは正しい=裁判を主導したのもイギリス人だし、牢の中で無理矢理男装させ不服従の罪を負わせたのもイギリス兵だし、火刑を執り行ったのもイギリス兵〕。ミュミュは、ここに来て、「3つとも間違い。何てバカな子」と呟くと、「この大馬鹿者!!」と怒鳴る。そして、「あんたの脳は、ガチョウより空っぽだ!」と言うと、教科書の20章を10回書けと命じる。
  
  
  

そして、朝食の時間。食事の前に立ったまま、全員で唱和するのが、『マタイによる福音書』の第6章13節。「わたしたちを試みに会わせないで、悪しき者からお救いください」(1枚目の写真)。全員が座ると、ミュミュは、ロジェに司祭様に挨拶に行くよう命じる。司祭は、ロジェのニックネームを覚えていて、「お早う、ブラス・クレ」と言ってくれる。それを聞いて、ロジェの顔がほころび、「お早う、司祭様」と返事する(2枚目の写真)。「大きくなったな。よく戻った。だか、今年は大変だぞ。ラテン語と英語がある」。それだけ笑顔で言うと、食事の席に戻るように言い、食事開始のベルを鳴らす。ロジェの向かいの子が、「司祭さん、何て言ったの?」と訊く。「ブラス・クレ」。「なんで?」。「僕の泳ぎ方さ」。「ホントの名前は?」。「ランティエ。君の名は?」。「ジョリ。何度、退学になったんだい?」。「4回」(3枚目の写真)。それを聞いたジョリは、テーブルの端にいる子に向かって、「おい、ブタン、彼、君を負かしたぞ。4回退学になったってさ」と教える。
  
  
  

ロジェの隣に座っているペルシャールが、母が半裸で日光浴している写真を、こっそり見せる。「きれいだね」。「いちんち中、日光浴してるんだ」(1枚目の写真、矢印)「彼女の裸、見て見たい? 君ならタダでいい。他の子からは、ボール30個もらった」。それを漏れ聞いた “朝の授業で大失敗したゲノー” が口を出す。「耳を貸すな。僕らも見た。それって、彼の母さんだぞ。プールみたいなお尻してる」。それを聞いた、他の生徒達から笑い声が起きる。怒ったペルシャールは、テーブルに上がり、ゲノーの襟をつかんでテーブルの上に引き上げ、首に腕をかけて喧嘩を始める(2枚目の写真)。場所が場所だけに、司祭がすぐに止めさせる。そして、場所を床に変えて 取っ組み合いをしている2人の首をつかんで自分の方に顔を向けさせると、2人の顔を引っ叩く(3枚目の写真)〔結構、乱暴な司祭だ〕
  
  
  

午後のミュミュの授業は、数学から始まる。「農夫は、長7m、幅5m、高2.5mの厩舎を持っている。1頭の牛に25㎥が必要なら、何頭飼えるか?」という問題を、10分で解かせておき、こんな簡単な問題をやっても仕方のないロジェとペルシャールを呼び、食料品の買い物に行かせる。買い物籠とお金とリストと配給カードを渡し、レシートを持って1時間で戻ってくるよう指示する(1枚目の写真)。2人で買い物籠を持って校内を歩きながら、ロジェは、さっきの喧嘩を踏まえて、「ゲノーは、君のお母さんの裸を見たの?」と質問する。「見てない。絶対」。「なぜ、あんなこと言ったのかな?」。「嫌がらせさ。この前、あいつを殴ったから」。「どうして?」。「あいつの親父のことでケンカしたんだ。民兵団〔ヴィシー政権下で活動した親ナチスの民兵組織〕にいたから」〔まだ戦後2年なので、裏切り者に対する蔑みは、2つ前に紹介した『その瞳に映るのは』の “HIPO豚” に対する敵意と同じだ〕。ここで、ペルシャールが、急に、「君、強いの?」と訊く。「うん。僕の押さえ込みは無敵だ。誰だって、やっつけられる」。「見せてよ」。「ここじゃダメだ。もし、ミュミュに見つかったら、少年院か予備軍学校に入れられる」(2枚目の写真)。「ここじゃ、退学になんかならないよ」。「休憩時間に」。ここから、映画では、ミュミュの授業のシーンに変わるが、ここでは、2人のシーンを先に紹介する。買い物の帰り、2人は仲良く話している。「将来、何になりたい?」。「自動車整備工〔Mécano〕」。「どうして?」。「いい車を持ちたいから」〔自動車整備工では、そんなお金は稼げないので、子供らしい発想〕。「君の父さんは、何に乗ってるの?」。「シムカ8」。「そりゃひどいな! 僕の義父は シトロ15だ〔シトロエン トラクシオン15 SIX D/オートルートの女王の異名を持つ名車〕。時速150キロは出せる。母さんが迎えに来る時乗って来るから、一緒に行こう」。ここで、話題が変わる。「自転車持ってる?」。「ううん。兄さんだけ」。「お気に入りなんだ。家から通って、自転車も持ってる。羨ましくない?」。ここで、2人は、少女2人とすれ違い、顔見知りのペルシャールは、「やあ」と声を掛け、少女は嬉しそうに笑う。「笑ってるよ」。「金髪は肉屋の娘、もう一人はタバコ屋の娘さ」(3枚目の写真、矢印は少女)。「素敵じゃないか〔Pas dégueulasses〕」。「おしゃまな子〔pisseuses〕さ。ミュミュは女の子が嫌い。僕たちが話してると嫌がるんだ」。
  
  
  

さて、学校では… また、聞き書き。その間、後ろの端の席では、2人の生徒が机の上で、直径1cmほどの小さな木のボールを鉄板の付いた棒で転がし合って遊んでいる(1枚目の写真、矢印)。目敏く気付いたミュミュは、「またやったわね、悪魔の子たち! もう許しませんよ、何てムカつくロバなの!」と叫ぶと、2人のチョッキを掴み、「サボり屋!! 劣等生!! あんた達、初等教育修了証書の年なのよ!! 寝ないで勉強するのね、このロクデナシ!!」と叱り(2枚目の写真)、狂乱状態になって、背中を何度も叩く。その音を聞きつけ、リベロールが入ってきて、腕をつかんで止めようとする。ミュミュは、リベロールの足を踏んづけ、顔を何度も平手打ちにし、リベロールが 「止めて!」と大声で頼んでも、両手で庇うリベロールに向かって打ちかかる。「授業中に勝手に教室に入って来て!」(3枚目の写真)。リベロールは、何とかミュミュの背中に回って暴れるのを止めさせる。冷静さを取り戻したミュミュは、教壇に立つと、2人に向かって、「シュトー、ノワイヤン、授業が終わっても居残りなさい。黒板に問題を書きます。あんた達が理解するまで、帰しませんよ!」と厳命する。
  
  
  

そして、休憩時間。さっそく、今まで一番強くて威張っていたランドローが、「誰だって、やっつけられるだと?」と言って、ロジェの前に現れる。「うん」。「ここで一番強いのは俺だ。見せてみろ」。ロジェが話したことをみんなに話したくせに、ペルシャールは、「戦わないで。殺される。彼は野獣だ」と止めるが、ロジェは戦い始める。最初は、振り回されて弱そうに見えたが、ある瞬間、ランドローの胸にしがみつくと、“押さえ込み” と言っていたフォール技でぐいぐいランドローを締め付け、遂には、背骨を折るような感じで地面に押さえつける(1枚目の写真)。ロジェが離れた後も、ランドローは胸を押さえて痛そうだ。ボスじゃなくなったランドローは、一人寂しく去って行く。年下の生徒がやってきて、「すごい押さえ込みだね。他にもできるの?」と訊く。「ああ、いっぱい」。「僕らの小屋、どこにあるか知ってる?」(2枚目の写真)。ロジェは、ペルシャールに訊くと、中庭の真ん中にある大木を示す。そこで、さっきの年下の生徒が先頭になって、木を登って行く。そして、ロジェを枝だけで出来た簡単なツリーハウスに連れて行くと、「ソーセージ〔リベロールの蔑称〕はドジだから、ここまで登って来れないんだ」と話し(3枚目の写真)、すぐ後から登って来たペルシャールは、「あいつ、重過ぎて登れないんだ」と、情報を正しくする。ツリーハウスには、「たくましい男たち〔Les dures〕」と書いてある。「これ何?」。「遊び仲間の名前。ランドロー〔リベロールの間違いでは?〕は壊したがってた。でも、滑り落ちて、首を痛めたんだ」。ここで、休憩時間が終わる。
  
  
  

次に始まった授業では、ミュミュが、全員に『マ・ノルマンディー〔Ma Normandie、第3節〕』を歌わせている。ミュミュは、途中から教壇の真ん前の使われていないイスに片足を乗せ、スカートの中の一部が見える姿で歌を続ける。それを見たゲノーは、消しゴムをワザと床に落とし、拾いながら覗こうとする。歌が終わると、ミュミュは、そのままの格好で、「週末までに覚えなさい。では、教科書を取って、9年生(9e)は朗読の復習、8年生(8e)と7年生(7e)は歴史と地理の復習をしなさい」と言う〔現在使われている分類では、9eはCE2(8歳、小3)、8eはCM1(9歳、小4)、7eはCM2(10歳、小5)/ロジェは11歳なので6e(小6)に相当するし、ランドローはもっと年上(5e?)だろうが、それに対する言及がないのはなぜ?〕。ゲノーは、もう一度消しゴムを落としてトライするが(1枚目の写真)、ミュミュは、さっきと違って歌っていなかったので、すぐにそれと気付き、脚を閉じる。そして、「ゲノー、黒板へ」と呼ぶ。ゲノーが、消しゴムを探すフリを続けていると、強い調子で呼び付け、黒板の前に立たせる。そして、「1キロ60フランでリンゴを1キロ買う。500フラン紙幣で、お釣りは幾ら?」と訊く。数学が全くできないゲノーは、黒板に、1、60、500と書いただけ。ミュミュは、「ゲノー、あんたは、ロクに計算もできないくせに、性根の腐ったことには熱心なようね」と責め、もう一度、問題をくり返して言う。ゲノーが黙っていると、いきなり髪の毛を掴み、右手で叩き始める。何度も叩くと、今度は、ゲノーの隣に座っていたギヨトを呼びつける。そして、同じ問題を解かせる。彼が黒板に書いた数字は、500と60。そして、そして両者を足して 「560フラン?」と答える。こんな簡単な引き算すらできないことに、ミュミュの怒りは再度爆発し、2人の生徒を掴むと、何度も叩き、ゲノーには、教室から出て行くよう命じ、ギヨトは床に叩きつける(3枚目の写真、2つの矢印)。
  
  
  

この授業が終った後、ロジェは1人残るように言われ、席に戻らされる。ミュミュは、ロジェの成績を見ながら、「なぜ、お父さんは、あなたのことを悪し様(あしざま)に言うのかしら? あなたは、知的で有能なのに」と評価した上で、「無料証明書〔certificat libre、詳細は不明〕を用意するつもりよ」とまで言ってくれる(1枚目の写真)。「数学と作文は少し苦手だけど、すぐに追いつけるわ」と言い、黒板に 「450/13」と書き、解かせる。暗くなって、寝室に行くと、もうベッドで寝ていたペルシャールは、「ミュミュは、何て言ったんだ?」と訊く。「証明書を取らせたいって」。そう答えた後で、「忘れてた、星だ!」と言って、ロジェは再び寝室を出て行く。ロジェは、星空を見上げて数え始める。そこにペルシャールがやって来て、「何してるの?」と訊く。「星を数えてる」。「どうして?」。「知らないの?」。「ううん」。「2ヶ月の間、毎晩 星を12個数えなくちゃいけない」(2枚目の写真)「最後の夜に願い事をすると、叶うんだ。でも、一晩でも忘れたら、それで終わり」。「星が見えなければ〔雨の日?〕」。「それはいいんだ。見える時には、やらなくちゃ」。「ちゃんと叶うの?」(3枚目の写真)。「いつだって」。「誰から訊いたの?」。「サン・シャルルにいた子」。「願いは何?」。「いい人生が送れて、両親には二度と会わなくて済むように」。「僕の願いは、お金を持って、世界中を旅して回ること」。
  
  
  

週末、ペルシャールとロジェが門のところで待っていると、ペルシャールの母親が、シトロエン・トラクシオン15 SIX Dを運転して息子を迎えに来る(1枚目の写真)。ペルシャールは、「この子、ロジェ・ランティエ、僕の新しい友だち」と紹介する。母親は、ロジェに 「今日のロイキのお客様ね?」と声をかける。「はい、マダム」。ペルシャール:「何時までいい?」。「ミュラール先生は19時だって。さあ、車に乗って」。ペルシャールは、母親に、「ロジェのために、100キロ出せない?」と頼むが、こんな田舎道じゃダメよ」と言われてしまう。母親:「あなたのパパの車は?」。「シムカ8」。ペルシャールが、「ゴミ」と言うと、「ロイキ、お友だちに失礼でしょ。シムカはいい車よ」。「亀だ」。「だから何? 黙りなさい。バカな子ね」。母親は、ロジェの姓を何度も口にし、「結婚してランティエになった友だちがいたわ」と、思わぬことを言い出す(2枚目の写真)。「あなたのパパ、訪問販売員?」。「はい、マダム」。「じゃあ、彼女に間違いないわ。ジェルメーヌのフランソワーズ・ルタイヨーが よろしくって、伝えといてね」。車は、豪邸の前で停まる。ここで驚いたのは、運転席や助手席のドアが、前に向かって開いたこと(3枚目の写真、矢印)〔後部座席のドアは普通に開く〕
  
  
  

ロジェは、階段を上がりながら、ペルシャールに 「君の母さん、素敵だね」と言う。ペルシャールは、すぐにロジェを自分の部屋に連れて行く。「彼女は、お風呂に直行さ。そこに1日中いる。そのお風呂は、壁のすぐ向こうなんだ」。ロジェは、ラジオが置いてあったので、ボタンを押す(1枚目の写真)。流れてきたのはラテン音楽。すると、そこに下着姿の母親が入ってきて、「リリー・ファヨール大好き」〔1940年代の歌手〕と言うと踊り始め、ロジェを呼んで一緒に踊り始める(2枚目の写真)。母親が出て行くと、ペルシャールはラジオを消す。そして、その左に置いてあった5冊の本をどけると、その後ろのレコードのジャケットを横にズラし、出てきた穴から覗く。ペルシャールは見慣れているので、すぐにロジェと代わる。ロジェが覗くと、そこにはペルシャールの母が全裸でバスタブに入っているのが見える(3枚目の写真)。ペルシャールは、「きれいだった?」と訊く。「すごく」。「君の母さんの裸、見たことある?」。「ううん」〔そもそも、浴室がない〕。「醜いの?」。「ううん、だけど 吐きそう」。
  
  
  

場面はすぐに切り替わり、生徒全員が川原の草地の上で、水着に着替えている。今や、離れられない親友同士になった2人は、仲良く一緒に服を脱いでいる。ロジェは、「君の母さんは、優しいね」と羨む。「そうじゃないのかい?」。「母さんは、ハグしてくれたこともない」。「父さんは?」。「意地悪な奴だ〔peau de vache〕。僕を殴ってばかり」。「どうして? さあ、いつもイライラしてる。僕の父さんじゃないみたいに」。「ひどいな」。リベロールが、全員、川に入るよう指示する。ペルシャールは、「君の平泳ぎ 見せてくれ」と言う。ロジェは、川に飛び込むと、上手な平泳ぎで対岸のボート目がけて泳いでいく。ボートの近くは流れが急なので、リベロールが、「戻って来い」と注意する。ロジェは岸に戻り、今度はペルシャールが飛び込むが、それは。我流のバタフライもどきで、泳いでいるのか、溺れているのか分からない。岸に戻ったペルシャールは、「やっぱり、クロールの方がいい」と言った後で、「ボートの下をくぐってみないか?」と提案する。ペルシャールは、今度は、まともなクロールでボートの上流側に到着。続いて、ロジェが平泳ぎでボートの船首に到着。その時には、ペルシャールは、もう潜り始めている。そこで、ロジェは泳いでボートの船首から下流側の船尾に向かう。しかし、待っていても、ペルシャールが現われない。心配になったロジェは、ボートの下に潜り、しばらくして、ペルシャールの首に手を掛けて浮上し、船べりに捉まる。「大丈夫か?」。「息ができなかった。死ぬかと思った」。「どうしたの?」。「パンツが引っ掛かって、動けなくなったんだ」。「戻って来ないんで、心配してた」。「君がいなかったら、僕は死んでた」(3枚目の写真)。「ううん、僕たちは、そんなことじゃ死なないよ」〔ロジェは、あくまで謙虚〕
  
  
  

司祭による上級生のラテン語と英語の授業。最初にロジェが、ラテン語で、“バラ” の単数形を、主格、呼格、対格、属格、与格、奪格の順に発音する。「Rosa, rosa, rosam, rosae, rosae, rosā」。これは正解。次は、ラテン語が一番得意なジャン=フランソワ。“バラ” の複数形を 「Rosae, rosae, rosās, rosārum, rosīs, rosīs」と答える。3人目がペルシャールで、“主人” の単数形を 「Dŏmĭnus, dŏmĭne, dŏmĭnum, dŏmĭnus, dŏmĭnō, dŏmĭnō」と言い、ジャン=フランソワが、「属格は dŏmĭnīです」と間違いを指摘し、ペルシャールは修正して言い直す。これで、ラテン語は終わり、次は英語。ここで、お手伝いの女性が司祭にコーヒーとパリパリに焼いた薄切りのパンを持って来る(1枚目の写真、矢印はパン)。司祭は全員に「The book」と発音させ、「the」の発音が誰一人として正しくないのに腹を立て、パンを食べながら、「the」を繰り返し発音する。お陰で、司祭の正面に座っているペルシャールとロジェの本の上には、細かなパンくずが一面に降りかかる。そこで、少しでも飛んで来ないようにと、鉛筆に紙を刺して傘にして避けようとする(2枚目の写真)。それに目を留めた司祭は、もともと自分の下品な行為が原因なのに、2人に腹を立て、「この無作法者めが」と言うと、ペルシャールとロジェの順に頬を引っ叩き、そのまま出て行かせる(3枚目の写真、2人は痛くて頬を押さえている)〔司祭の2度目の暴力。これでも聖職者?〕
  
  
  

ミュミュの野外授業。場所は、草花が咲き乱れた野原(1枚目の写真)。「10年生(10e)、9年生(9e)は、15分間、授業の復習。8年生(8e)と7年生(7e)は、これから実物教育を行います」と言う〔以前と同じ疑問。6eや5eは何をすれば?〕。ロジェは、先の夜の会話で、ペルシャールの夢が 「世界中を旅して回ること」だったのを話題にし、「もし、邪魔されたら? 逃げ出すの?」と訊く(2枚目の写真)。「船に乗って冒険に出るんだ」。「他の国へ?」。「そうさ」。「やるの?」。それに気付いたミュミュは、「ランティエ、ペルシャール、またおしゃべり? 離れなさい」と命じ、ペルシャールが別の場所に移る。ミュミュは、8eと7eを対象に、「実物教育の116ページを開いて、花について学びましょう」と言い、ヒナギクを1本取って、がく、花弁、雄しべ、雌しべについて説明する。ブタンが、草笛で遊んでいるのを見つけたミュミュは 「先生は、何と言いましたか?」と質問する。ミュミュは 「雌しべの中に胚珠があります」と教えたのに、ブタンは 「胚珠の中に雌しべが」と答え、「反対でしょ、この間抜け! 何てバカなの! 『僕はバカの王様で、何も知りません』と100回書きなさい」と叱られる。今度は、ギヨトが鼻や耳に花をつけて遊んでいる(3枚目の写真)。ミュミュは、「天才のギロト君、それは『calice』なの?」と訊く〔caliceには、①がく、②聖杯の意味がある〕。“がく” のことなど聞いていなかったギロトは、「司祭様がミサの時に使われる、司祭さん花器ですね?」と答え、「あの聖杯じゃないわ、この間抜け。司祭の聖杯と、花のがくを混同するなんて! ギロトのバカ! あんたのお母さんはキラキラ星を生まなかったのね」と叱られる〔ミュミュの口撃は、今なら許されない 個人に対する侮辱に満ちている〕
  
  
  

同じ日か、違う日か分からないが、生徒達全員が校舎の壁際で上半身裸になっている。その時、トイレから出てきた1人の生徒が、中庭の木の上からツリーハウスの木材が投げ落とされているのに気付く、そして、生徒達の方に走って行くと、「ソーセージが、菩提樹の小屋を壊してる」と緊急報告(1枚目の写真、矢印は木材)。生徒達は、ミュミュが目の前にいるため、何もできず、恨み節を口にするだけ。ミュミュは、板で囲いをした場所に立ち、1人ずつ生徒を呼んでは、布手袋で生徒の体をこすって垢を落としている〔この学校には、シャワーすらない〕。次の番はロジェ。「四角形とは何?」。「4 つの辺と 4 つの頂点を持つ幾何学図形です」。「よろしい、パンツを下げて」。ミュミュは一番不潔な部分を洗う〔ミュミュは、朝早くから就寝まで教え、こんなことまでさせられている。大変な重労働だ〕。「平行四辺形は?」(2枚目の写真)。「辺が等しく平行な四角形です」。「よろしい。今夜、私の部屋で復習よ」。次のシーンでは、生徒達が教室で席に着き、教壇には、ソーセージことリベロールが座っている。そこに、一張羅を来てカバンを持ったミュミュが入って来て、お気に入りの生徒にカバンを持たせる〔バスまで運ばせる〕。初めて見る光景に、ロジェは、「ミュミュ、どこ行くの?」とペルシャールに訊く。「隔週木曜日に、ニオールの大佐の家へ」。「大佐?」。「空軍の。絶対、ミュミュの彼氏だ」。ミュミュは、生徒達に 「リベロールさんと一緒にいること。19時半のバスで戻るわ」と言い、荷物持ちと一緒に教室を出て行く。最後部の机のランドローは、窓から、ミュミュ達が門を出て行ったのを確認すると、すぐに立ち上がり、叫びながら 机の上の物をリベロールに向かって投げ付け、他の生徒もそれに倣ってリベロールを攻撃する(4枚目の写真)。ツリーハウスを壊されたことに対する復讐だ。生徒達は、リベロールを放っておいて、中庭に飛び出して行く。
  
  
  
  

生徒達は内庭全体に拡がり、ロジェとペルシャールを含め3名がツリーハウスの木に、他の2人がもう1本の木に登る(1枚目の写真、手前はリベロール)。リベロールは2つ目の木の下から、「降りて来るんだ」と呼びかけると、2人は 「捕まえに来いよ」。「害獣だ」と笑う。リベロールが、「先生に言いつけやる」と言うと、隣の木で聞いていたペルシャールが、「告げ口屋。でかゴミ」と罵り、もう1人が、「来いよ、ソーセージ」と煽る。怒ったリベロールは、木に登り始めるが、滑って地面に仰向けに落ちる。リベロールがもう一度トライして、ツリーハウスまで登って来ると、その前に、3人は枝で作った “橋” を渡って隣の木に。リベロールは、怖くて枝を歩けないので、3人はそれを見て笑う(2枚目の写真)。リベロールは、「この悪ガキめ、覚えているがいい」と言うと、諦めて木から降りる。すぐにツリーハウスに戻った3人は、リベロールに向かって折った小枝を投げつける。リベロールが司祭の住居の方に走って行くのを見たランドローは、全員に警告を発する。ここで、画面は切り替わり、おめかしして大佐の家を訪れたミュミュが映る。大佐は、戦時中の色々な記念品に囲まれ、色の濃い眼鏡をかけ〔戦争で失明?〕、上品な部屋に1人で座っている。「心配していました。あなたは、いつも時間厳守だから」。「バスが遅れました」。大佐は、目の前に円テーブルに置いた大きな花束と、チョコレートの箱を杖で指して、「あなたにです」と言う〔メイドがいて、全部揃えてくれる〕。「ここずっと、私のために読んで下さったから」。ミュミュが持って来たレコードをかけると(3枚目の写真、矢印は、手で回しているところ)、大佐の目から涙が溢れ出る。大佐が、手探りしながら、隣のイスに腰かけたミュミュの手を握り締める姿は、恋なのか?
  
  
  

ミュミュが、午後7時半過ぎに戻って来ると、教壇にはリベロールではなく、司教が座っている。「どうされました?」。「罰として居残りを。彼らは、リベロールさんを暴漢のように襲い、石を投げつけた〔石ではなく小枝〕。私の所に助けを求めに来るほどひどく」。「いつ起きました?」。「あなたが出掛けてすぐ」(1枚目の写真)。ミュミュは、優等生のジャン=フランソワに、「何が起きたの?」と訊く。「知りません、先生」。「どういうこと? そこにいなかったの?」。「いましたけど…」。それ以上は、涙で何も言えない。ミュミュは、生徒達を順に見て行き、直感で、犯人はランドローだと確信する。そして、前に呼び出すと、懲罰用の木の棒を持ち、両方の手のひらを見せるように命じる。手のひらは真っ黒だった。それが証拠とばかりに、ミュミュはランドローの手のひらを棒で何度も叩く。そして、「騒動を始めたあんたに違いない〔実に鋭い〕。この穢れた犬め!」と叫ぶと、今度は、棒で、頭や体をめった打ちにする(2枚目の写真)。「穢れた牛! 穢れた害獣!」。度が過ぎると思った司祭が止めに入ると、ミュミュは、さすがに棒ではなく、両手を使って司祭と争う(3枚目の写真)。それを見た生徒達から笑い声が起きる。司祭は、ミュミュが鎮まらないので、生徒達を教室から追い出す。それでも、ロジェやペルシャール達は、ドアの外から様子を伺っている。ペルシャールは、「ミュミュは、時々、完全に異常になるんだ」と、ロジェに言う。
  
  
  

学校が休みになり、ロジェとペルシャールを含め、生徒達が門の所で迎えを待っている(1枚目の写真)。2枚目のグーグル・ストリートビューは、ロケ地となった小さな村Aubignéの町役場の一番端。この村は、偶然、ロジェの家のあるニオールの南東約40キロにあり、ミュミュの学校があってもおかしくはない。ところで、映画の最初の頃には、汗まみれのシーンや、その後、水泳のシーンがあったので、夏は過ぎている〔撮影は2009年の7月〕。映画の中で言及はないが、この場面は、①単なる週末か、②特別な日なら万聖節(1947年11月1日)であろう。ペルシャールの母親がやって来て、彼は助手席に乗り込むと、2人揃ってロジェに手を振って別れる(3枚目の写真)。ロジェは、その後も待ち続け、遂に一人になってしまう。ずっと立っていてくたびれたので塀の上に座っていると、リベロールが中から走って来て、「ランティエ、君の両親から電話があって、今夜は来られないそうだ。障害ができたとか。先生が説明してくれる。来るんだ」と言う(4枚目の写真)。
  
  
  
  

がっかりしたロジェは、リベロールに付いて教室に行く。ミュミュは、「あなたの両親の友だちの1人が、大きな交通事故に遭ったそうよ」〔当然、父の嘘〕と告げる。「誰です?」。「私には言わなかった。事故を見に行くから、迎えには来れないって。洗濯物袋をベッドに置いていらっしゃい。夕食を早めに済ませ、この機会に勉強しましょう」。ミュミュの部屋に来たロジェに、彼女は次々と問題を出す。そして、ある問題を出した後で、仕切り扉を開けると、ロジェは、机に頭を乗せて眠ってしまっていた。起こして寮のベッドまで行かせるのは可哀想だと思ったミュミュは、棚から枕と毛布を取り出すと、ロジェが座っていた長椅子に横にならせる(1枚目の写真)。翌日、ミュミュはロジェを教会に連れて行き、地元の合唱団と一緒に『アヴェ・マリス・ステラ』を歌わせる(2枚目の写真)。教会での行事が終わった後、ロジェはミュミュと司祭と一緒に教会の外に出てくる。ミュミュは司祭に、「数学で、ロジェは、遅れを取り戻すでしょう」と言い、それを聞いた司祭は、「良かったな。私は、君がいい子だと知っていた」と笑顔で言い、ロジェも嬉しくて照れたような表情になる(3枚目の写真)。「今日の午後、外に卓球台が用意される。君は、卓球をやれるか?」。「はい、司祭様」。「もし、晩課〔晩の典礼〕の後で時間があれば、私たちはミュラール先生とドミノをする。先生は、とても強いんだ」。
  
  
  

司祭は、ミュミュと一緒にロジェも昼食に招待する〔時計は12時7分を指している〕。司祭は、「父と子と聖霊の名において…」と祈りを捧げ、「アーメン」で終わる。すべての祈りが終わる前にナプキンを手に取ったロジェは、泣き始める。「どうした? なぜ泣いてる」。ロジェは泣くだけ。「怖れずに、話しなさい」。「なぜ、両親は来なかったのですか?」(1枚目の写真)。ミュミュ:「もう、説明したでしょ」。「いいえ、絶対そうじゃありません。サン・シャルルでも同じでした。僕はずっとコレージュで過ごしました」(2枚目の写真)。司祭:「一度も来なかった?」。「ほとんど1回も」。ミュミュ:「なぜ?」。「知りません。友だちはみんな帰るのに、いつも僕だけ。みんなは、僕の素性が悪くて、不良っぽいと言います」。「そんなことないわ」。「いいえ、そうなんです」。「きっとあなたが、少し、行儀が悪いからよ。お兄さんのように物静かになれば、もっと愛して下さるわ」。「あり得ません」。ミュミュは、「落ち着いて」と言って、ロジェの頬に触れる(3枚目の写真)。「悪いのはいつも僕で、兄さんは常に正しいんです。母さんは、彼がいない時だけ、僕に優しいんです」。「彼って?」。「父さんです。僕、彼が嫌いです」。司祭:「そんなこと、言うもんじゃない」。「それが現実なんです。残念ですが」。ロジェの手が汚れていたので、洗いに行かせている間に、ミュミュは司祭に、「あの子は、深刻な問題を抱えています。彼の両親と話すべきではないでしょうか?」と言うが、その後、“何事にも後ろ向きでやる気がなく、変に短気で暴力的” な司祭が何を言ったのかは分からない。
  
  
  

その後、2つのエピソードがあるが、好きになれないので省く。川の上を46人の男女の生徒と、司祭、ミュミュと女子校の教師達を乗せた大きな木造船が進み、その上で、生徒達が背中に小さな天使の羽根を付けて合唱している(1枚目の写真)。生徒達は船から降りると、男女に分かれて整列して歩き(2枚目の写真)、野原に建っている初期ロマネスク様式の教会〔ロケ地のAubignéの約40キロ南にある12世紀に建てられたAbbaye de Châtres〕の前に参列する。生徒達の中には、ペルシャールとロジェがミュミュに買い物に行かされた時に出会った2人の少女がいて、「今日は」と親しげに挨拶する〔この映画の欠点は、時間の経過が曖昧な点。生徒達の服装は、万聖節の時より軽装なので、いつの間にかクリスマスを過ぎたことになる。最初に会った時が夏で、それから半年、一度も会わないで、こんなに親しくなれるのか? それとも時々買い物に行かされて、会っていたのか?〕。その、宗教行事が終わると、生徒達は草花が咲き乱れた野原の上に2~4人ずつまとまって座る(3枚目の写真)〔以前、ミュミュの野外授業が会った時と花の様子が同じ。映画では、この先、復活祭(1948年3月28日)がある。なのに、全員が半袖。映画の撮影が2009年の夏なので、冬のシーンなど無理なので、どうしても不自然なワンパターンになってしまう〕
  
  
  

ロジェは、2人の少女を見て、「話しかける?」と提案し、ペルシャールも「賛成」と言う(1枚目の写真)。女の子の方も、金髪の子が、2人を見ながら、「可愛いわね〔mignons〕」と言い、もう1人も、「ええ」と ほほ笑む。野原の上での昼食が終わると、ミュミュは、「1時間、はしゃいでもいいわ。ボール蹴りをしたい子は、リベロールさんとなさい。私は、小さな子たちとゲームをします。ここから離れないように。15時には、全員が、マシュプール司教がおっしゃった晩祷〔夕べの祈り〕に参加します。そのあと、会堂の中をガイド付きで見て、引き返します。楽しみなさい」と、アナウンスする〔女子校からも教師が来ているが、映画の中では発言しないので、女生徒が何をすればいいのか分からない〕。ロジェとペルシャールは、2人の女生徒のところに行き、ロジェが、「島に行かない?」と誘う。金髪の子:「ええ、いいわね、あなたは?」。もう1人:「悪くないわね。もし30分で着くなら」(2枚目の写真)。ロジェ:「僕たち、先に行くよ。一緒のとこ見られちゃマズいから」。「いいわ」。どちらかと言えば、消極的な2人目の子が、「ついてくの?」と訊くと、金髪の子は、「怖いの?」と訊き返す。「そうじゃないけど…」。「食べられちゃう訳じゃなし。行くわよ」。4人が行った先は、島の中にある納屋。その藁の上で、ロジェは金髪の子と、ペルシャールはもう一人の子とキスを始める(3枚目の写真)。もともと積極的だった金髪の子は、ロジェとキスを続けるが、もう1人の子は、嫌がってペルシャールにキスさせない。
  
  
  

55分が経過し、ミュミュが、「あと5分よ。服を着なさい」と声を掛ける。ボールを蹴って遊んでいる生徒の中に2人の姿がないので、ミュミュは、「ランティエとペルシャールはどこ?」と、リベロールに訊く。「知りません」。ミュミュは、生徒達にも、見なかったかと訊くと、「いいえ、先生」との返事。ミュミュは、「ちゃんと見張ってなきゃダメじゃないの、バカね! 探してらっしゃい、この間抜け!」とリベロールを叱る〔相変わらず、口ぎたない〕。そこに、女子校側の代表が来て、「2人の生徒がいません。見ませんでしたか?」と尋ねる。2と2なので、ミュミュはすぐにピンと来る。そして、リベロールに、「分かった? 探すのは4人よ!」と言った後で、「思い知らせてやる、不品行な悪ガキども」と、ブツブツ言い、まだ動こうとしないリベロールに向かって、「走って!! すっ飛んで!!」と怒鳴る。その頃、納屋から出てきた消極的な女の子が、時計を見て、「1時間過ぎちゃった」と言う。金髪:「何て言われるかしら」。「そう言ったでしょ!」。「一緒に来なきゃよかったのよ」。「あなた、口見た?」。「口がどうかした?」〔キスのし過ぎで、唇の周りが赤い〕。2人は途中でリベロールとすれ違う。2人を見たリベロールは、その先の納屋に向かって、「ランティエ、ペルシャール、出て来い!」と叫び、女生徒2人には、「そこで待ってろ」と命じ、納屋に走って行く。次のシーンでは、リベロールに連れられた4人が、茂みの中から出て来る。ミュミュ:「みんな、どこにいた?」。リベロール:「納屋です」。「何てふしだらな!」。女生徒を引き取らせると、ミュミュは、つかつかと2人に歩み寄り、頬を引っ叩く(1枚目の写真)。そして、ロジェを脇に連れて行くと、「あんたが、信頼できないガキだって分かった。ほんとにがっかりしたわ」(2枚目の写真、矢印は藁)「優秀な生徒にしてあげようとした時間は、全部無駄になった。あんたには、構ってあげる価値などない」と、冷たく言い放つ〔ロジェにとって、最大のショック〕。学校に戻った翌朝、ロジェは司祭の部屋に呼ばれる。そして、「昨日、Notre-Dame de la Touche〔ロケ地のAubignéの約325キロ東。遠すぎるような…〕で何があった?」と質問される。ロジェは、「僕たち、女の子2人と散歩に行きました」と、嘘を付く(3枚目の写真)。「それは、禁じられた行為だ」〔ロジェの髪の毛に藁が付いていたことまでは、報告されていない〕「みんなに心配をかけた。特に、ミュラール先生に。君を罰するよう頼まれた。私に、その積りはない。ただ、二度としないと約束しなさい。分かったな?」。「はい、司祭様」。「もう1つ。君の両親から電話があった。復活祭の休暇中、ここにいて欲しいそうだ」〔前述したように、急に、3月28日が目前に迫る。外は、夏なのに〕。「なぜです?」。「君のお父さんは、仕事の関係者に夫婦で会いに行く必要があると 言っていた」。「僕の兄さんは?」。「何も聞いてない。私たちは、一度君の両親と話し合わねばならんと思っている」。ここで、ロジェが泣き始める(4枚目の写真)。司祭は、「泣くんじゃない」と言って、ハンカチを渡す。そして、復活祭の間ここにいたら、いろいろなことができると言った上で、ミュラール先生は君に期待していると 励ますが、それは昨日の激しい小言で夢が破れたので、慰めにはならない。
  
  
  
  

その日か、別の日の夜、星空を見上げて、ロジェは、「星、幾つ数えた?」とペルシャールに訊く(1枚目の写真)。「66。5日以上」。「僕は終わった。今夜、願い事をするんだ」〔「2ヶ月の間、毎晩 星を12個数える」と言っていたが、あれから7ヶ月以上経っている〕「君、今でも舵を取りたい〔barrer〕?」。「なぜ?」。「両親は、復活祭の間、僕をここに閉じ込める気だ」。「ひどいな」。「僕たち、舵を取らないと。見てよ、地図でルートを考えたんだ。ラヴァルに着いたら、マイエンヌ、アランソン、ルーアンからル・アーヴルへ。そこで船に乗るんだ」(2枚目の写真)。ここで、これまで出て来た地名の位置をフランスの地図の上に落としたものを3枚目に示す。黄色の×は、映画の中で実際にある場所として出てきた場所。空色の×は、ロケ地。黄色の●は代表的な都市。ミュミュの学校は、架空の場所にあるが、ロジェの家や、ミュミュの好きな大佐の家のあるNiortと、ペルシャールの家のあるSt. Gelaisの近くにあると思われる。そういう意味では、学校のロケ地のAubignéは、実に “それらしい” 場所にある。また、学校の行事で生徒達が船で行き、ロジェが大失策をする聖堂のあるロケ地Abbaye de Châtresも、割と近くにある。一方、この行事の開催地として司祭が口にする聖堂Notre-Dame de la Toucheは、リヨンの近くにあり、信じがたい。この節で、ロジェが口にするLavalMayenneAlençonRouenLe Havreは、学校のある場所からかなり離れていて、目的地のLe Havreの近くに集中している。ただ、学校があるらしい場所からLavalまでは真北に進むだけなので、ロジェは口にしなかったのかもれない。このロジェのルートに対し、ペルシャールは、「どうやって、そこまで行くの?」と訊く。「歩いて」。「何日かかる?」。「5、6日」。「1日何キロ歩くつもり?」。「50」。「あのね、考えたんだけど、できないよ。母さんが死んじゃう」(4枚目の写真)。「君が辞退するのは知ってた。構わないよ。僕一人で行くから。どっちみち、僕はいつも一人ぼっちだから」。ロジェは「構わないよ」と言ったが、ロジェのペルシャールに対する友情には、聖堂での大失策と合わせ、大きな亀裂が入る。
  
  
  
  

朝、生徒達が顔や上半身を、小さな洗面器の水を浸したタオルできれいにしていると、ロジェとペルシャールが何かを奪い合う(1枚目の写真)〔小さくて見えない。石鹸?〕。ミュミュが、「ランティエ、ペルシャール、またなの?」と声をかけるので、あの夜以来、前のような大親友同士ではなくなっていた。争奪戦が止まないので、「やめなさい!」と怒鳴る。それでも止めないので、手元に置いてあったブラシを投げつけ、ペルシャールの足に当たる。ロジェはブラシを拾うと、すぐに投げ返すが(2枚目の写真)、それがミュミュの顔の左面を直撃する。あまりの痛さに、ミュニュは仰向けに倒れ、すぐ横にいた生徒が2人掛りで支える(3枚目の写真)。怖くなったロジェは、学校から逃げ出す。その後の展開で、当たったのは偶然のようになっているが、投げている先にはミュミュしかいないので、観ていて、作為としか思えない。もし、そうなら、ロジェは、悪質な不良ということになるが、ある意味、4回退学経験者のこれまでが、“いい子過ぎ” て不自然だったので、これが真の姿かもしれない〔映画は、そうではないと、必死にロジェを守ろうとしているが、なら、もう少し、“偶然に当ってしまった” ように編集すべきだった〕
  
  
  

ロジェは、3月のフランス中部〔ラ・ロシェルの気温は最高12℃、最低7℃〕に咲いているはずのないお花畑の中を必死に走る(1枚目の写真)。その頃、リベロールから話を聞いた司祭がやってきて、何が起きたのか生徒から詳しく訊き出す。当たりが真っ暗になった頃、池のほとりに辿り着いたロジェは、岸に縛ってあったボートに乗ると、ロープを取り出す。そして、一旦岸に上がると、手に持てる限界の石を持つと、ボートまで運ぶ。そして、ロープを石に十文字に縛り付け、もう一方の端を輪状にし、自分の首に入れて絞る(2枚目の写真、矢印はロープの両端)。ボートから川に入って〔足が付かないほど深い〕、ボートのへりに捉まりながら、石を水中に落とす。石と一緒にロジェも沈んで行くが、十文字縛りでは、重い石を支えきれず、石だけ落下し、自殺は失敗する。ロジェは、ボートまで浮き上がると何とかボートに這い上がる。シーンは、翌朝となり、2年の憲兵が池に沿った小道を捜索していると、岸近くに建っている小さな小屋の中に、ロジェが寝ているのを見つける。ロジェはずぶ濡れのままなので、親切な憲兵は制服を脱いで着せてくれ、一緒に学校まで歩いて行く(3枚目の写真)。
  
  
  

ロジェが学校の前まで来ると、大嫌いな父の車が停まっている。覚悟を決めて内庭に入って行くと、木陰には両親、司祭、ミュミュの4人が、待っていた。ミュミュは、「ずぶ濡れね。いったい何があったの?」と、“ある意味” 心配して訊くが、それを無視して、キチガイ親父が、「自慢たらたらか?」と、嫌味を言う。「どうなんだ?」。ロジェは泣き始める。「ミュラール先生に謝るんだ」。ミュミュは、何故か、「彼の責任じゃないわ。私にキスして」と言い、寄ってきたロジェの両方の頬に、キスする(1枚目の写真)。あまりの優しさに、ロジェは、ミュミュに抱き着き、「ごめんなさい。わざとやったんじゃありません」と、泣きながら謝る(2枚目の写真)。ミュミュは、「食べてから服を替えなさい。友だちが食堂にいるわ」と、ロジェを解放する。しかし、ロジェが席に着くと、すぐに司祭が入って来て、「ロジェ、来なさい」と呼ぶ。司祭は、食堂から出ると、「これを虐め〔brimade、人を虐める無益な処置〕と取ってもらいたくないんだが、君は、もうこの学校にはいられない。見せしめが必要だ。起きたことは深刻だ。君たちは、先生を尊敬しなくてはならんのだ。ミュラール先生は、君が留まることを望んでおられるが、私は望まん。だから、ご両親に迎えに来てもらった」(3枚目の写真)「食事が終わったら、荷物をまとめなさい」と告げる〔この司祭は、暴力的な上に、無慈悲にして狭量。このような小さな村の司祭で生涯を終えるに相応しい、レベルの低い人物だ〕
  
  
  

家に向かう車の中で、キチガイ親父はロジェに、「満足か? 何を考えてる?」と訊く(1枚目の写真)。ロジェは、まだ涙を流したまま、「わざとやったんじゃない。ブラシが顔に当たるなんて思わなかった」と弁解する。「だが、退学になっちまった。先生を殺したかもしれないんだぞ! これから お前をどうしたらいい」。ここで、母が口を出す。「サン・ジョゼフはどうかしら?」。「受けれてくれるなら」。「やってみましょ」。食事の席で、ロジェは泣きながら、「コレージュなんかに行きたくない。兄さんみたいに通学したい」と、すがるように頼む(2枚目の写真)。しかし、キチガイ親父は、「なんで お前を幸せにしてやらにゃならん。お前 一つでもいいことしたか? 兄さんは、私たちを満足させてくれる。お前はゼロだ! 暴力しか振るわんじゃないか! 今度だって! 寮生しか許さん! 少年院じゃなくて幸運だと思え!」と怒鳴りまくる〔不倫の子で他人としか思っていない〕。ロジェは、それでも、「嫌だ。行きたくない」と言うと、「黙れ!!」と叫び、叩こうとする(3枚目の写真)。
  
  
  

ロジェは、サン・ジョゼフに連れて行かれ、修道僧に迎え入れられる(1枚目の写真)。翌朝、生徒達が内庭で遊んでいても、ロジェだけは、門の鉄柵に手をかけて外の世界を見ている。そこに、自転車に乗った兄がやって来て、「母さんがお前の鞄に入れ忘れたから、持って行ってくれと頼まれた」と言って、下着の入った紙包みを渡される。サン・ジョゼフの並木道の向こうには、兄の友達が待っているので、ここはロジェの家の近くにあるコレージュ。同じ町にいるのに、片や通学で、片や寮生活。本当に嫌なキチガイ親父だ。その夜、ロジェは、大部屋のベッドから身一つで抜け出すと、こっそりと玄関を出て行く(2枚目の写真)。遠くから雷鳴が聞こえる。ロジェが、サン・ジョゼフの裏口から外に出て、街路を走り始めると、滝のような雨となる(3枚目の写真)。それでも、ロジェは走り続ける。
  
  
  

ロジェは、降りしきる雨の中、サン・トゥジェーヌにあるミュミュの家のドアのベルを鳴らす(1枚目の写真)。後で分かるが、時刻は午前4時。当然、ミュミュは寝ていたが、ベルの音で目が覚め、窓に明かりが点く。そして ドアが開き、ミュミュが顔を見せる(2枚目の写真)。「ここで、何してるの?」と訊くが、雨がひどいので、とにかく中に入れる。そして、ストーブの前まで連れてくると、「どこから来たの?」と訊く。「コレージュから逃げ出して」。「どこの?」。「ニオールのサン・ジョゼフから」。「雨の中、ニオールから来たの?」。「靴のブラシのことで、謝りに来ました。ワザとじゃありません」。「知ってるわ」。「家に帰ると、父さんに蹴られました。僕を死ぬほど殴ると、サン・ジョゼフに連れて行きました。戻りたくありません」〔同情を引くための嘘の可能性が高い(そんなシーンはなかった)。そもそも、死ぬほど殴られたら、兄から荷物など受け取れなかったろうし、激しい雨の中を数十キロも走れるハズがない/彼は定常的な嘘つきなのか?/ブラシは本当にワザとではないのか?〕。「泣かないで」。「父さんに会いたくありません」。「それは、間違ってるわ」。「悪いのは、いつも僕なんです。理解しようとしてくれません」。話を聞いてやるのも大事だが、このままでは風邪をひいてしまうので、ミュミュは、ロジェを下着だけにし、暖かいウールの服を羽織らせる(3枚目の写真)。
  
  
  

ロジェの涙顔を見たミュミュは(1枚目の写真)、「あなた、私を怒らせたでしょ」と言う〔ブラシのことではなく、女の子のこと〕。ロジェは、ブラシのことかと思い、「ワザとじゃありません」と繰り返す。ミュミュは、以前、怒った時の、「あんたが、信頼できないガキだって分かった。ほんとにがっかりしたわ。優秀な生徒にしてあげようとした時間は、全部無駄になった。あんたには、構ってあげる価値などない」を見直すかどうか決めようと、問題を出し始める。「Les pommes tombaient(りんごが落ちていた)」。ロジェは、すぐ 「aient」と答える(2枚目の写真)〔“tomber” の直説法半過去、第三人称複数形〕。ミュミュは、次に、「Les pommes tombées(落ちたりんご)?」と言い、ロジェは、「ées」と答える〔過去分詞、女性複数形〕〔どちらも、「トンベ」としか聞こえない〕。そのあと、ミュミュは、「6時になったらお父さんに電話しましょう。サン・ジョゼフで心配してるから」と言う。ロジェは「ダメ、サン・ジョゼフには戻りたくない。僕、ここにいたい。ここ、大好き。両親には二度と会いたくない」と、泣いて頼む。ミュミュは、ロジェを抱きしめると、「1515年」と訊く。「マリニャーノの戦い」。「1685年」。「ナントの勅令の廃止」。「円の面積」。「半径×半径×3.14」。「台形の面積」。「上底+下底×高さ÷2」〔口頭なので()は入らない〕。「Bouffi(膨らんだ)」。「ffi〔過去分詞〕。「Le jars(雄のガチョウ)」。「jars〔単数〕。「1805年」。「アウステルリッツでの勝利」。「1914年9月」。「マルヌでの勝利」。全部正解だったので、ミュミュは、「あなたを守るわ〔Je te garde〕」と言い、感激したロジェはミュミュに抱き着く(3枚目も写真)。
  
  
  

  B の先頭に戻る    の先頭に戻る         の先頭に戻る
     フランス の先頭に戻る         2010年代前半 の先頭に戻る